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灯す人-野口 雄一郎- | KumamotoZine

灯す人-野口 雄一郎- | KumamotoZine

IN THE LIGHT_野口雄一郎

私がかつて自宅を建てた時のこと。工務店の設計士さんに「ご夫婦でどんなお家が良いのか、まずはイメージを自由に描いてみて下さい」と言われ、私は理想の間取りをイメージしながら、クロッキー帳にペンを走らせました。妻の手元を覗くと、なんとランプシェードから描き始めていました。「えっ?!いきなりそんな細部から(笑)」と私。ちょっとムッとした妻の顔を今でも覚えています。

あれから16年。理想の我が家になったかはさておき。まさかこのインタヴューを経て、あの時妻を笑ったことを省み、妻に詫びを入れることになるとは思いもしませんでした。

熊本市北区武蔵ヶ丘にある『IN THE LIGHT』は、洗練された上質な灯りのある暮らしを提案する、名作照明とヴィンテージ家具のショールーム。2021年1月24日にリニューアルオープンし、ますます独自の世界観を醸し出しています。電気工事を行う株式会社ソラサポの代表でもある、野口 雄一郎さんにお話を伺ってきました。

IN THE LIGHT_野口雄一郎
野口 雄一郎さんが座るのは、近代建築の巨匠ル・コルビュジェの従兄弟で、協働で家具デザインを行ったピエール・ジャンヌレの〈オフィス・ケーン・チェア〉。1951年からコルビュジェと共にインド・チャンディガールの都市計画の中で製作された。世界のヴィンテージ家具業界では今一番ホットな椅子。一脚40~60万くらい。左はイサム・ノグチの〈AKARI〉

『灯り』を愉しむ。

ミッドセンチュリーデザインに魅せられて

ショールームリニューアルおめでとうございます!業態変えられたんですか?

「いえいえ、今も電気工事が本業ですよ(笑)。色彩空間さんがカーテン・クロスのショールームを作られましたよね。だったらウチは照明のショールームだなと思ったわけです」。

しかし電気照明器具のショールームというよりは…

「そうなんですよね、最初はこういうふうにするつもりは全然なかったんです(笑)。お客さんとの打ち合わせとか、電気配線のプランニング。ダウンライトや間接照明、調光の度合いとか、実際に見て体感してもらえたらすごくいいんじゃないかなと思ってショールームを作りました。カタログだけだとサイズ感もわからないし、実物見ずにこんな高い照明は誰も買わないだろうし。世界にはいろいろ素敵な照明があるので、私が“本物”と思うものを少しずつ集め始めました。それが1個増え2個増え…。そしてヴィンテージ家具も集めていたので、リニューアルでこうなりました(笑)」。

IN THE LIGHT_野口雄一郎
Tom Dixon〈BEAT〉ペンダントライト。インドで日常的に使われていた真鍮製の水甕をモチーフにデザインされた〈BEAT〉シリーズ。北インドの熟練工の手によって製作され、トール、ワイド、ファット、スタウトの4つのフォルムがあります。様々なフォルムを組み合わせて使用することで、より印象的な雰囲気を演出することができます。椅子は、LAのAce Hotelのテラスで使われているものと同じタイプの、豚の革と革紐と木材だけで作られた素朴なチェア。メキシコ製。16世紀アステカ文明の時代から同じ形で作られ続けているという、民芸品のようなもの

理想の家ってその人の原風景に由来するってよく聞きます。

「壁にはチーク材の突き板。水回りにはタイルを使ってます。ここのイメージコンセプトは僕の実家なんです。50年前に建てられたごく一般的な家です。当時はリビングの壁に突き板はよく使われていたし、玄関に石材とか、お風呂やトイレはタイル貼り。昔はそれが普通だったし、今みたいにクロスもユニットバスもなかったですしね。50年前のエレメントを現代のデザインに落とし込んだら新鮮じゃないかなと思って作ったんです」。

IN THE LIGHT_野口雄一郎
フランス人デザイナーのシャルロット・ペリアンが1962年にデザインし、フランス・モンブランにあるレザルク・スキーリゾートなどで使われていた、ウォール・ランプAPPLIQUE À VOLET PIVOTANT 〈アプリーク・ア・ヴォレ・ピヴォタン〉。シェードを動かして光の向きを変えられる壁付照明の名作

全体的にミッドセンチュリーテイストですね。

「そうなんですよ。それでひとつ気が付いたのは、皆さん“高そう”と言うんです(笑)。全然高い訳ではありません。それとリニューアルに際して、白い壁をやめたかったんです。こういう照明器具の灯りって、白い箱の中では乱反射して美しさが際立たないんです。必要以上に明るくなって白けてしまう。灯りのある暮らしを愉しむなら、ぜひ白い壁ではないほうが良いと実感しました。脱・白い壁!」。

なんとなく室内は白い方が良いような気がしてましたが、こうしてみると確かにダーク系の壁の方が照明器具も灯りも綺麗に見えますね。

「天井の真ん中にシーリングライトをひとつだと、ソファに座って本を読む時手元は意外と暗かったりします。ダウンライトにしても同じで、光源から遠くなればやっぱり暗い。それを補うようにペンダントライトを追加するようなプランニングをよく見かけますが、本当は光と影のメリハリのついた陰影のある部屋の方が、人は心地良く感じるんです。いい感じのカフェやホテルの部屋ってその辺りに気を遣っている。生活するシーンに合わせて必要な箇所に必要な明るさをと考えると、昼間のように天井から煌々とした光は必要ありません。そして人は本来、日没と共に徐々にリラックスモードに入るようなバイオリズムになっていますので、焚き火や蝋燭のような自然に近い灯りの方が居心地のいい空間になるんです」。

以前、野口さんにはロジックのスタッフ向けに『光ケーブル配線計画講習会』を開催していただきました。光ケーブルの配線って壁の中に張り巡らせるので、後からの設置が難しい。だからお客様の将来的な要望を、最初にきちんとヒアリングすることが重要ですよ、みたいなお話など、電気工事の業者さんがそこまでしてくれるんだって、その時思いました。

「僕が電気工事をやってて、前の会社を辞めて独立した理由でもあるんですけど、その場さえ良ければいいみたいな感じがあるんです。職人はその時だけその場をやり過ごせばいいみたいな。悪気はないんです。でも僕たちが本来やるべき仕事ってお客様に満足していただけることであって、プロに任せて良かった〜って思ってもらうことなんですよね。そして僕はちゃんと綺麗な仕事をしたいと思う。でも最初からきちんと計画して作らなかったら、それはできないんです」。

IN THE LIGHT_野口雄一郎
#filmphotography

価値観の転換、ロジックとの出会い。

ロジックとの出会いは?

「ロジックとの出会いは熊本地震の2016年。独立して2年くらい経って、そろそろ自分がやりたいように仕事に関わりたい、家作りに関わるんだったら、熊本で一番かっこいい住宅を作ってるところの電気工事だけをやろうと思って、それで辿り着いたのがロジックだったんです」。

なんか、ありがとうございます!

「実際僕たちの仕事は“安く安く”って言われます。価格で仕事取られたことも何度もあります。でも独立した一番の理由は…。例えばエアコンの取り付け工事とかでお客さんに『どこにつけるかはプロに任せます』と言われたとしますよね。すると普通、職人さんはどうすると思います?」

使い勝手の良い最適な場所に?

「違うんです。全ての職人さんがそうではないけれど、自分が“つけやすいところ”に付けて、早く終わらせて帰ろうとする。その方が楽に儲かるじゃないですか。でもお客さんの気持ちってそうじゃない。プロから見てここがベストだっていう仕事をして欲しいって思いますよね。じゃあ、なんで手抜きするか。前の会社の同僚に60歳ぐらいのベテランの職人さんがいました。身なりもいつもボロボロで、独身だけどお弁当作ってきてて、お昼にジュース1本も買わない。もちろんジュースを奢ってもらったこともない。一度その人の家に行ったこともあるんですけども、アパートもやっぱりボロボロ。その人だけじゃなく、他の社員の給与も生活できるギリギリ。休みは週1日。その人たちが、実際の工事をするわけです。その立場になるとわかるんですけど、一生懸命仕事なんてできないですよ。だって仕事を評価されていないようなもんですもん。そしたらやっぱりそういうふうに手抜きになるのは仕方がない。その現状を見たときに“自分はこういうふうにはなりたくない”と思ったんです。抜け出したいって」。

そこがターニングポイントだったんですね。

「でも一緒に働いてる人たちはそう思ってない。だったら僕は会社を辞めて自分でやるべきだって決めたんです。状況は今も変わらない。建設業界っていうのはやっぱりものすごく遅れてるし、課題もいっぱいある。その中で自分ができることはわずかなんだけど、でも少なくとも自分が携わる電気工事においては、自分のできることは精一杯やろうとスタートしました。住宅は一生に一度の買い物なんだから、プロが健全にきちんとサポートしなきゃいけないからですね」。

なかなか勇気が必要ですよね。慣例に逆らうことにもなりますし。

「実は以前、僕も2世代住宅を建てようとしたことがあったんです。大手から地場ビルダーまで6社ぐらい、いろんな住宅会社回って相談してたんです。僕も一応建築の勉強してたんで、なんとなくわかるんじゃないですか。もう電気工事の仕事もやってたし。でも、そんな僕から見てもこれは駄目だろうみたいなプランが多かった。あと営業トークの勢いだけのところとか。住宅って一生分の借金背負って買うわけじゃないですか。一生に1回しか建てないのに、口八丁手八丁で契約させようとするような営業マンを見たときに、とてもじゃないけど怖くて家なんて建てられないな、と思ってやめたんですよ。ある1社はすごく親身になって予算守りますみたいな感じでずっとやってくれたんですが、プランもばっちりですって持ってきたんです。これは本当に良かった。もちろん金額も大丈夫なんだろうなと思って聞いたら、1000万予算オーバー。呆れ果てました。でも皆さん普通にこれで契約するんだろうなと思って」。

最初にライフプラン、資金計画から始めないと、家を建てた後に好きな趣味も楽しめない生活になっちゃいますもんね。

「僕は建ててないからそれは分かりませんが(笑)、そうでしょうね。それで中古のマンションを購入したんです。ローンは新築の半分以下。だから借金が少ない分、いろんな可能性がまだ残されてます。将来的にフルリノベーションする資金的な余裕も生まれるし。欧米だと新築の家を建てるという価値観がそもそもあまり無いんです。中古住宅を買って自分たちでリフォームして住みますよっていうのがスタンダード。日本みたいに新築にこだわる人が少ない」。

アメリカに行かれてたんですか?

「電気工事を始める前、設計事務所を辞めたてアパレルの仕事をしてた20代前半ぐらいの頃。アメリカのロサンゼルスに古着の仕入れに行ってました。僕は当時古着のことしか知らなかったんだけど、アメリカには洋服だけじゃなく色んな中古品のマーケットがたくさんあったんですよ。今でこそ日本もリサイクルショップがあちこちあるけど、向こうは衣料品だけではなく、家具やありとあらゆるものの中古が流通していて、しかも休みの日とかになると大規模なフリーマーケットが開催される。あるいは自分の家の前で適当に要らない物を広げてフリーマーケットをやるとか、そういうのが日常的にありました。しかも日本だと中古って言うと、なんかネガティブな感じがするけど、向こうではむしろカッコよく見えた。ある時、僕は先輩の家に3ヶ月間滞在してて、知り合いの引っ越しの手伝いに行ったら、良い感じの集合住宅の1軒家に置いてあった家具が、全部ヴィンテージだったんです。しかも、見たこともないような50’sのハワイアンぽい家具とか、自分のセンスと審美眼でコレクションされていて世界観があった。その人実は日本ですごく有名な古着のバイヤーの方で、何年もアメリカに住んでたので、やっぱり日本人が知らないようなものをたくさん知ってるわけですよ。それで、その空間の雰囲気に痺れちゃって」。

IN THE LIGHT_野口雄一郎
棚は1950年頃にジョージ・ネルソンが考案したウォールシステムで、様々なパーツを自由に組み合わせて使える画期的な収納システム。それにインザライトがオリジナルで制作したキャビネットを組み込んだ特別仕様。手前の椅子は、1964年にチャールズ&レイ・イームズがデザインしたEames Plywood Dining Chair DCW〈イームズ・プライウッド・ダイニングチェア DCW〉。軽量のベニアシートをプライウッド(成形積層合板)という技術を使い、世界で初めて3次元立体成形で作られたもの。現行も販売されているがこれは当時のヴィンテージ品。奥はシャルロット・ペリアンのLes Arcs Chair〈レザルク・チェア〉

本場の空気感の中で価値観の転換がなされた訳ですね。

「そうですね。その時自分が知ってたものって、すごく浅いんだなって。それまでの自分の価値観が全部吹っ飛びました。それまでアメリカってなんか土臭さくて、ちょっとカントリーチックなイメージ持ってたんですけど、いやいや実際は、ものすごく洗練されてるしモダン。ロサンゼルス市内にも家具のセレクトショップが何軒もあって、もちろんただの中古の家具屋さんみたいなお店もいっぱいあるんですけど、でも完全にアートギャラリーみたいなショップもある。昔のものなんだけど、見たこともない最新のデザインに見えたんですね。新旧がうまくミックスされていて。日本でミッドセンチュリーのブームが来る前だったからすごく衝撃でした。それまではなんとなくモダン=最新トレンドってイメージがあったけれど、“モダン”っていうのは、昔のもの、例えば50年代から現在まで含めた中で、最もデザイン的に優れているものなんだって」。

歴史的に残るプロダクトってありますよね。

「価値観って人それぞれではあるけれど、60年代のベンツとかフェラーリの美しさ、価値は永遠のものだと僕は思う。新しさだけに価値を見出すだけなら、最新が出る度に前のモデルはただの中古にしかならない。でも60年代のフェラーリは古くなればなるほど、価値はもっともっと上がっていく。なぜならそのデザインっていうのが今までの歴史の中でやっぱり最高にかっこいいと思うし、今見ても美しくて魅力的なんですよ。でもフェラーリF40とか初代ホンダNSXとか、当時は最先端でスーパーカーで今もすごい高値は付くけど、希少価値とかそういったことを抜きにして、デザインで見たときに、何かちょっとねって感じがする。トヨタの2000GTがオークションで何千万かで落札されたりとか話題になってましたが、50年以上経ってもその美しさはやっぱり変わらない。トヨタだけではなく現代の日本車であんなに美しい車があるかと言われると、僕には思いつきませんね」。

IN THE LIGHT_野口雄一郎

海外の照明やヴィンテージ家具を集めるきっかけは?

「そんな感じで、少しずつヴィンテージ家具を集めていたんです。どうして僕が海外のものばかり集めるかというと、以前日本の家具デザイナーの方の7〜8万円くらいの椅子を1脚買ったんです。すごく気に入って使ってたんですが、でもある時、デンマークにそれっぽい形のやつがあったんです。もっと古いやつ。僕が買ったのは明らかにそれを模倣してるのが分かった。そのとき僕はすごくがっかりしたんですね。あと2〜3万ちょっと出せば、そのデザインの源流になったデンマークの北欧家具が買えたんですよ。日本のデザインにはそういうものがあまりにも多すぎる」。

オマージュといえば聞こえはいいけれど…、ですね。

「だから僕は、過去から現在まで、ミッドセンチュリーから70年間の中で、最もデザイン的に素晴らしいっていうものを集めようと思ったんです。そしてショールームに展示するその理由は、雑誌やインターネットで見ることができても、実物を見たことがない人は多い。でもここに来たら見られる。それが東京なら普通かもしれないけれど、熊本の、しかも郊外のこの武蔵ヶ丘っていうところが、すごく貴重なんじゃないかなと思うんですよね。そしてうちにある椅子は全部ヴィンテージ。本物の空気感っていうものに触れて欲しい。例えばこのハーマンミラーのDCW、今でも現行でも復刻版を製造販売してるんですよ、25万ぐらいで。でもヴィンテージだったら40万ぐらいします。ちなみに新品とヴィンテージのオリジナル、どっち買いますか?」。

し、新品かな。。

「僕は迷わずヴィンテージを選ぶ。なぜなら現行のやつは、お金を出せば、幾らでもでも普通に買えるんです。作り続けられている限り。別に今買う必要はない。でもヴィンテージって一期一会なんで、その瞬間に買わなかったらもう二度と手に入らないかもしれない。それからもう一つは、実は資産価値としての考え方もある。新品のハーマンミラーだったら購入した金額以下でしか売却できない。でもビンテージだと40万でそのまま売れるか、もしくはもっと高く売れる可能性もある。ヴィンテージってワインと一緒で限られたものにしか与えられない称号なんです。しかもヴィンテージのDCW椅子っていうは、アメリカでプライウッド(成形積層合板)という技術を使って世界で初めて3次元立体成形して作られた歴史的な椅子なんです。その歴史をまとった一脚であるっていう事実。ヴィンテージの価値は普遍なんですよ」。

確かプライウッドの技術はギブスからでしたよね。

「そうです。他にも戦争のために開発されたいろんな技術が、戦後の物資が不足の中で、あらゆる産業に流用されました。戦争が終わって人もどんどん増えて、経済自体がどんどん発展していく。そして“良いデザインのものを手頃な価格で供給しよう”っていう発想が生まれて、モダニズム文化が花ひらいた。プライウッドによってイームズがデザインしたのは、高級家具を作ろうとしたわけじゃなくて、安くて良いデザインのものを大量に生産しようとして、その技術が活かされたわけです。その後にグラスファイバーの椅子なんかも開発してるんですけど。フランスにおいてもそうだし、他の国においてもそうです。特に戦勝国にそういう傾向が強いです。結果、ミッドセンチュリーの時代のデザインが美しいのは、無駄な装飾が無くシンプルだから。ロジックの家作りもモダニズムの系譜にありますよね」。

そうですね、“美しくて、たくましい家”の考え方そのものですね。

「僕は以前、アートポリスな市営住宅に住んでました。うちは3階だったんだけど、エレベーターが2階と4階にしか停まらなくて(笑)、4階に上がってから階段で降りるみたいな。外観のデザインは奇抜で目を引くんですけど、住んでみると問題も多かった。住んでた部屋は南側の窓は小さくて、でも北側には大きい窓が二つもあったんです。寝室にしてたけど断熱材も何もないからやっぱりすごく寒い。実は7年ぐらい住んでて毎年冬になると咳が止まらなかったです。ある時、壁がなんか柔らかくなってたから、触ってみたらカビててプラスターボードがもうヘニャヘニャだった(笑)。他のお宅は玄関の天井がカビてたり、環境がすごく悪かった。そのときに感じったのは、外見のデザインだけが優先されて、住環境を蔑ろにしたらいけないってこと」。

外観は斬新なんですけどね、やはり住んでみないとわからないですね

「ロジックの家がデザイン性と高気密・高断熱など性能も大切にしているのは、ある意味すごく正解だと思うんです。さらに言えばパッシブデザインっていう考え方がもっと一般的になれば、住宅はもっともっと変わると思うんです。外観とか間取りとか広さだけではなくて、狭くても快適な住まい。デザイン性だけじゃなくて、空調とか設備に頼らなくても快適な、そういう住環境がこれから重要なのではないでしょうか」。

IN THE LIGHT_野口雄一郎
右/デンマークのVerner Panton(ヴァーナー・パントン)が1969年にデザインした〈VP GLOBE〉は、圧倒的な存在感とスペースエイジ・デザインを象徴する作品として、多くのパントン作品の中でも特に人気の高い照明 左/Tom Dixon 〈COG Pendant〉真鍮製の小ぶりなペンダントライトを組み合わせてシャンデリアのように。「今までも中古を海外から集めていたけど、昨年何個か持っている人と縁があり、全部譲ってもらいました(笑)」#filmphotography

モダニズムについて

まさに持続可能な社会を目指す上でパッシブデザインは欠かせない要素ですよね。

「例えば、気をてらったデザインってあるじゃないですか、建築で言うとモダニズムが1920年代ぐらいからだんだんできてきて、80年代ぐらいでもうそろそろもういいんじゃないかっていうところで、ポストモダンという考えが出てきた。個人的にポストモダン時代の建築ってものすごくグロテスクで、デザイン的に美しくないって思うんですね、どうですか?」。

両国のスタルクがデザインした黄色い●●●とかですか?

「そう、当時からすごく賛否両論あったけれど、あのデザインに行き着く理由ってなんなんでしょう?ビールの形態模写?特に日本ではバブル景気と重なり、奇抜で大規模なポストモダン建築も増えた。IN THE LIGHTショールームがあるこの建物も30年ぐらい前のもので、まさにポストモダンな80年代。例えばあそこ、外観のアクセントに柱を赤くして見たりだとか、デザイン的にやっぱり古臭いじゃないですか。そして美しくないんですよね。それまでの様式を壊したいっていう熱量は感じるけど(笑)。武蔵ヶ丘って街はちょうどモダンからポストモダンの時代に開発が進んだ地域なんですけど、街ごとポストモダンな雰囲気」。

ミッドセンチュリーが逆に際立ちますね。

「ポストモダンはクールなデザインに対するアンチテーゼであったと思うんです。そもそも存在理由が、モダンデザインがあってのポストモダンっていうか。建築も、文化的なものも、多分60年代ぐらいですでに出尽くしてるんだと思うんですよね。その後は、過去のものを切ったり貼ったりしてるだけみたいな。高級マンションもいまだにエントランスにはだいたい大理石を使うじゃないですか。そこにあるのはデザイン云々っていうよりも、高級なものを使ってるっていう価値だけ。それは音楽にも似たようなことが言えるんじゃないかな。ファッションもすでにあったものの焼き直しだしその繰り返し。ポストモダン以降、今も、過去の文化を壊し再構築するところからスタートするっていう発想になってるがゆえに、やっぱり純粋なデザインの存在理由っていう部分が欠けてる」。

IN THE LIGHT_野口雄一郎
リニューアルされた『IN THE LIGHT』ショールーム。チークの突き板と天井の間接照明で独特の雰囲気。ショールームというより誰かのお宅のリビングの様。どこか懐かしく感じられるその訳は…

デザインは、課題を解決するためにある。

「デザインっていうのは、そもそも色んな人に気づいてもらうきっかけになるツールだと思うんですよね。でも、ポストモダンみたいに、その奇抜さだけが注目されると、それは良いデザインと言えるのか。良いデザインっていうのはやっぱり中身の良さをデザインで表現している。機能的で、それがなおかつ美しく見えるっていうところがやっぱりすごくいいですよね」。

それがモダニズム建築とミッドセンチュリーデザインの魅力ですね。

「そう。だから僕は、ロジックがここまで大きくなったのは、渡鹿の家のデザインが、それまでの住宅史で最高にシンプルでまとまっていて、クオリティが高かったからだと思うんです。キューブ型の住宅が究極的にコストパフォーマンスが高いというのは、十分わかってることなんだけど、それだけではなく、あのフォルムと窓の切り方、あのデザイン。真似できそうで真似できないのは、あのデサインがそれほどまでに究極だったからだと思います。あれを超える家は、ないですよ。設計者が狙ってやったのか偶然できたの知りませんが、狙ってデザインされたのなら、僕は渡鹿の家を規格化して大量生産すればいいとずっと思ってました。住みたいと思う人はたくさんいるはずです。モダニズムの発想と一緒で、良いデザインのものを手頃な価格で大量に、たくさんの人たちに行き渡らせるっていう部分でいくと、あのデザインって究極的にシンプルだからあれを大量に作ればいい」。

渡鹿の家
渡鹿の家

確かに。渡鹿の家と同じコンセプトで建てられたオーナー様もいらっしゃいます。

「僕たちってオーダーメイドで車は買わないし、ほどんどの人が全ての服をオーダーメードで作ったりしない。既製品で十分だし、かっこいいものもある。既製品がコストパフォーマンスが良いのも十分知っている。それなのに住宅は初めて建てるのにいきなりフルオーダーメイドだったりする。だったらいっそのこと、渡鹿の家をアップデートしながら作り続ければいいと思うんです。建築家って同じデザインのものを作らないですよね。それってすごくもったいないし、すごく非合理的だと思うんです」。

注文住宅が正解とは思わないけれど、規格住宅より注文住宅が上位と、なんとなく売る側もそんなイメージ持ってますよね。私は自転車が趣味なんですけど、以前びっくりした話があって、初めてのスポーツバイクとして、ロードバイクをフルオーダーフレームで作るみたいなことが、とあるショップのブログに載ってて、そんな、まだ自分の乗り方とか最適なサイズ感とか何の基準もないのに、いきなりフルオーダー!?ってびっくりしました。

「家建てたことないのに、どんな形にしますか?壁紙どうしますか?って聞かれても困りますよね実際。いきなり理想のマイホームを建てられるのか?それより、デザインも性能も十分確約された家を、自分らしく住みこなすのも全然あり」。

ロジックではヒアリングの際、お部屋は何畳にしますか?とは尋ねず、そのスペースでどんなことをしたいですか?とお聞きしています。

IN THE LIGHT_野口雄一郎
IN THE LIGHTのレストルーム。壁には、立体感のあるYラインが美しいレリーフ形状のタイルHi-Ceramics〈Cedre〉を使用。並べ方によって多彩なパターンの組み合わせが可能で、北欧モダンやヴィンテージミックスなど色々なテイストの空間を演出できます。タイルの立体感を引き立てるため、あえて天井には照明を配置せず、オリジナルで制作したキャビネットにテーブルライトを設置しています。(IN THE LIGHTインスタグラムより)

どんな価値にお金を払うか

「例えば何か買い物をする時、値段で選んだりとかすることって多いと思うんですよね。500円ランチとか。そうすると今まで800円で定食作ってたお店って人が来なくなって、やっていけなくなる。廃業するか500円で作るしかない。じゃあ500円で作るためには、それまでこだわってたものを何か捨てなければならない。そうすると、800円で美味しい料理を食べられるところが無くなって、500円のそこそこのお店しか残らなくなる(笑)。それは僕たちにとって本当に幸せなことなのかなって思うんですよね。国内外で外国人労働者を低賃金で雇い始めた結果、日本人の仕事が減り産業も先細る。僕たちがそれまで1000円だったものを500円で買うことに価値感を感じ続けるとしたら、世の中そういうふうになっていきますよ」。

確かに。コスパが良いと得した気分になる。

一時期『これいくらだったと思う?どこで買ったと思う?ファストファッションの店で980円!』っていう会話、よくあったと思うんですけど。若い子たちが古着がおしゃれと言いながら、古着には500円までしかお金を使わなくなったら、今まで2000円で売ってた良質な古着屋さんはどんどんなくなってしまって、500円で買えるような物を扱ってるお店しかなくなってしまうでしょう。それって、文化レベル下がっていってないの?そういう環境の中で、育ち暮らすっていうことが、果たして僕たちにとって理想なのかなぁ?と思うんでよ。労働環境も含めて、少しでも安く安くを求めるんなら、結果何かちょっとおかしな方に行ってしまう」。

“安いかどうか”じゃなくて、ものの本質自体を見ないとですね。

「外国人労働者の問題と同じです。うちで扱っているルイスポールセンのPH アーティチョーク ペンダントライト。あれ1個で150万ぐらいするんですけど、未だに全部デンマークで作ってます。トムディクソンもドイツ製だし、この辺のFLOSの照明も未だに全部イタリアです。つまりどういうことかというと、1950年代とか60年代にデザインされて、イタリアやデンマークで、そこの職人さんたちが作り続けているってことなんです。その産業が今もずっと続いている。それに携わっている会社、メーカー、職人さんが、それを生業にできている。片や日本はとにかく人件費の安い海外で作ったりするじゃないですか。産業も仕事もどんどん手放している。あとジェネリック製品、いわゆるコピー商品も、要は日本で海外のメーカーが商標登録してないもののデザインを流用し、ジェネリックって言って勝手に売ってるだけ。それを喜んで買っている。コピー商品を買うということは、そのコピー商品を作っている産業を支えていることになる。それはオリジナルのルイスポールセンをつぶして、コピー産業コピー文化を、支持してることになる。それって凄く良くないっていうことはわかりますよね?同じものが作られてるならいいんじゃない?って思う人がいるかも知れませんが、いや同じものじゃないんです。もっと粗悪な素材で作ってあり、もっと劣悪な環境で作られていたり、もしくはそれを作ってる人たちが不当な労働をさせられてる可能性もあるんです。だから安いコピー商品を買うっていうことは、そういった産業を支えているということなんです。値段だけで判断するとはそういうことですね」。

IN THE LIGHT_野口雄一郎
右は1950年代のハーマンミラーのパーテーション。アメリカからイギリスのオーナーを経て70年ほど経っている。プライウッドの技術が使われ現行でも復刻されているが、パネルは6枚。このオリジナル版は10枚。当時オーダーで作られていた。天井にはルイスポールセンのPH アーティチョーク ペンダントライト(ステンレス)

大好きなものなら、その産業を支える一人として判断したいですね。

「うちで扱ってるものは基本的にオリジナルのヴィンテージや現行品の照明器具。150万の照明だったらちょっと壊れても絶対に捨てないでしょ?(笑)。修理すると思うし。それから、古いオリジナルが高いからってリプロダクト(復刻品)を買う人いると思いますが、僕はできればヴィンテージをお勧めしたい。さっきも言った資産価値のこともあります。リプロダクトならちゃんとしたメーカーの復刻版だから良さそうに思われるけれど、これからの時代、やっぱり無駄に生産しないっていうことも重要だと思います。それは資源を無駄に使わないっていうことにもなるんです。70年以上前にデザインされたものでもいまだにすごく美しい。何十年何百年経っても多分変わらない価値があると思います。オーナーが変っても、それを引継ぐっていうことにはものすごく意味があることだし、大事に物を使うという価値感にもつながる」。

ロジックも持ち家が「資産」となる社会を目指し、子や孫の代まで受け継がれる住まいを提供することを目標にしています。

「家も家具も、自分が想う本物の価値観で、自分の世界観を作っていきたいですよね。そして共感してくれる人と分かち合いたい。時々店の前を歩く小学生とかおばあちゃんが立ち止まって「わあ綺麗だね〜」とか言ってくれるんです。モダニズムとかミッドセンチュリーとか、小難しいことなんて知らないはずなのに(笑)。その時に『ああ、灯りってやっぱり人を惹きつける魅力があるんだな〜』と思いました。IN THE LIGHT自体がこの街の灯りなんだって。これからもそんな場所であり続けたいと思います。これが椅子だけだったら多分そういうふうにはならなかったと思いますけど(笑)」。

IN THE LIGHT_野口雄一郎

小説家谷崎潤一郎は、元来日本人が持っていた芸術的な感性を随筆『陰翳礼讃』(いんえいらいさん)の中で論じました。『日本人が既に失いつつある「陰翳の世界」を、文学の領域に少しでも呼び返してみたい。壁を暗くし、見え過ぎるものを闇に押しこめ、無用の室内装飾を剥ぎ取り、試しに電灯を消したそんな家(文学)が一軒くらいあってもよかろうと「私」は思う。』と結んでいます。

IN THE LIGHTは住宅インテリアの分野で、まさにこの陰翳礼讃を実践する一軒ではないでしょうか。野口さんの言葉を借りるとIN THE LIGHTのショールームとは…

温故知新をテーマに新しいものと古いものをミックスさせ、照明の使い方を始めとするこれまでとは違う生活様式の提案も含め、インテリアデザインの枠を超えたライフスタイルそのものを表現しました。単なるお洒落な空間づくりではない、「本当に豊かな暮らしとは何か」という問いに対する私なりの回答を示したつもりです。

『IN THE LIGHT』 HPコラムより

照明から家具、住宅、インテリア。それから美意識、価値観、人生観に至るまで、野口さんにたくさんのお話を聞かせていただきました。

私は帰宅後、IN THE LIGHTのことを妻に話しました。

「ほらぁ〜やっぱり!私、野口さんと話が合いそう!」

「ごめんね、ランプシェード、あれはママが正しかったかも…」

お気に入りのペンダントライトから始まる家づくりも、断然ありだと思っているのです今は。

IN THE LIGHT_野口雄一郎
IN THE LIGHT Lighting Design & Interiors

熊本市北区武蔵ヶ丘1-15-16ヴィブレツイン1階

照明セミナー(無料)も開催されています。

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