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etu – 橋本 美樹 – | KumamotoZINE

etu – 橋本 美樹 – | KumamotoZINE

多くの観光資源に恵まれる熊本。中でも阿蘇神社とその門前町は言わずと知れた観光名所である。そんな町の中ほどに佇む小さな古道具店「etu」店主の橋本美樹さん。ご本人が表に立つことは少ないものの、その人柄ゆえか人を惹き寄せる不思議なパワーを感じます。道具を愛する一貫した姿勢ついてお話をお伺いしてきました。

神社に守られる町で

通りの窓から覗く気になる物々の顔ぶれに惹き寄せられる観光客も多いでしょう。何か目立ったことをしているわけではないのですが、端から見ていて「なんだか面白そう。」そう思わせる“なにか”が漂うお店。それが「etu」です。

お店の始まりは13年前に阿蘇市一の宮の旧洋裁女学校跡に店舗を構えたところから。当時は箪笥などの大きな家具も扱っていた。7年前に現在の場所に移転。今は車で持ち帰れるほどの日用品が多い。

「このお店では普段の生活で心置きなく使って頂けるものを扱っています。器は明治・大正・昭和のはじめくらいのものが多いですね。いまは偶然うつわ類がたくさん入ってきた時期だったのでお皿が多く置いてありますが、日頃から道具類全般を扱っています。

元々私は熊本市内の新町に住んでいたんです。あの辺りも城下町の風情が残る素敵な場所ですよね。あの地域で古道具のお店ができたらいいなと思って物件を探していたのですが、中々これだと思えるものに出会えなくて。そんな時に友人に紹介してもらったことをきっかけに、この阿蘇という場所に出会いました。最初はやっぱり悩みましたけどね。今まで住んでいた場所からはかけ離れているし、冬は寒いんじゃないかなとか、火山の影響があるんじゃないかなとか。

でも一度見に行ってみようよって誘われて。最近では古い学校を利用したカフェもちらほら見ますよね。熊本にもこんな場所があったんだなあと思って、何度か見学を重ねて、ここでやってみることを決意しました。5-6年経つとだんだんお客様に認知もしてもらえて、阿蘇には阿蘇のいいところがあるなあと実感してきました。自然は豊かだし、観光客の方もたくさんいらっしゃいます。コロナ前は全国海外から様々な人が訪れてくださいましたし、神社の帰りに寄ってくださる方もいる。やっぱりここは神社に守られている町ですからね」。

まだ記憶に新しい2016年4月14日、熊本地震が発生。時は早いもので今年で5年が経つが、熊本県内の復興はいま尚続く。阿蘇地域は主要道路が寸断され迂回を余儀なくされていたが、昨年2020年10月に最短ルートとなる国道57号線が開通。また今年2021年3月には国道325号線、新阿蘇大橋も開通。地震によって分断されていた道路が繋がったことで、アクセス難が大幅に改善された。

阿蘇神社はその姿を描いた仮囲いの中にて修復中。2024年に工事完了予定とのこと

「本震が起きた4月16日。そのころは私は熊本市内の古家に住んでいました。そこは数カ月に1回開催する展示会の会場を兼ねた住まいだったのですが、そこが大規模半壊になってしまったんです。ちょうど展示会の直前でお預かりしている家具もたくさんあり、とにかく大変な状況で…。しばらくは阿蘇のお店には様子を見に行くこともできませんでした。テレビで阿蘇神社の被害や崩落した橋を見てきっとお店もダメかもしれない…と考えていました。

だけど阿蘇に住む人が「店の中は思っていたよりもひどい状況ではないよ」と、状況の連絡をくれて。ほっとしましたね。道が寸断されてしまったし人通りも激減したけれど、とにかくやるしかないということで、この地域は4月25日頃にはお店を再開してました。町の人に早く帰っておいで!って言われましたね。少しずつ熊本全体が落ち着きだした頃になると、阿蘇神社の様子を見に来る人が増えました。そこで現状を自分の目で見て、何かできることで応援しなきゃということで町にお金を落としてくださる方がいたり、イベントが始まったりしました。

熊本地震に加え昨年はコロナ禍。観光で栄える町はダメージを負ったが、現在は少しずつ客足が戻りつつある

私はその時期、熊本市の黒髪にあるギャラリーを半年間ほどお借りして、平日は市内で、土日は阿蘇で、と言う形で営業を始めました。わたしは物販なので場所を変えて販売することができましたが、周りの飲食店さんなんかはそうはいかないですよね。でも加工品を作ったり、通販を始めたり、卸を始めたりと、それぞれに今できることやるべきことが始まって。町全体で乗り越えようという雰囲気がありましたね。

この町は団結力が強いんです。この土地で生まれ育った方もいらっしゃいますし、二代目三代目と家を継ぐ方もいらっしゃいます。最近はこんなにたくさんのお客様に来ていただいていますが、20年くらい前だったら猫しか通ってなかったって話を聞きます。私が阿蘇に来た13年前ぐらいからかな。その頃にとり宮さんの「馬ロッケ」ができたり、たのやさんの「たのシュー」ができたり、この十数年みんなで少しずつ盛り上げていったのがこの地域です。そうやってみんなでこの街を盛り上げてきたことで結束力が培われたのでしょうね。

でも地震後はもちろん大変なことには変わりはなくって。10月の国道57号の開通までは以前のようにはいきませんでしたね。本当に、頑張ったと思います。私はひとりのお店なのでのほほんとしていられましたが、従業員さんがいらっしゃるところなんかはさらに大変だったと思います」。

モノに映るもの

2007年に「etu」をスタートした橋本さん。いまのお仕事を始める以前から古物のコレクションをしていたそう。お店には時折海外のヴィンテージアイテムも並びます。古道具ならではの魅力とはどんなところに宿っているでしょうか。

「親の影響だったのかもしれないけど、中学生の頃から既に古いモノに興味があったんです。でもお店をすることが目標!ということは特に全然なくて。ただ漠然といつかできればいいなあとは思っていました。そんな時に、当時勤めていた会社が倒産したことをきっかけに、やりたいことをやるなら今しかないなと思ったんです。そこからお店が決まるまでは3年はかかりましたね。

古いモノが絶対!というわけでもなくて、新しいモノも好きなんですけど、全体的に古いモノばかりの中に新しいモノが突然入ると合わなくなってしまって。あとはやっぱり、傷が入っていたりへこんでいたり、先人が使ってきたことで丸みを帯びたりって、それぞれに唯一無二のぬくもりが映っているところが好きですね。愛着というか、愛らしさというのか。どうしてもそういったものに手が伸びてしまいます。

何十年も何百年も残っているモノだから、どれもきっと大事にされてきたものなのだと思います。また次の人まで、大切に使っていただければいいなと思っていますね。私はその橋渡しの役割です」。

「etu」に並ぶのは、ゆがみや傷、唯一無二の個性を持つ道具たち。古物だけでなく、作家さんの作品も並んでいます

「これまでは年に1回海外に行っていました。仕入れというよりは旅行に行っていたのですが、行ったらどうしても買い付けたくなっちゃうんです。2020年の2月にフランスに行ったのが最後でしたね。この近くに神戸から移住してきたシャツ屋さんの友人がいるのですが、彼は年に1回フランスで展覧会をしていたので、それに合わせてまた行きたいなと思っていたのですが…まだ無理そうですよね。あとはタイや韓国にもよく行っていました。

フランスはスーツケース25kgが2つ持ち込めるので、その中に詰め込んで帰ってきています。基本的には自分で持ち帰れるものしか買いません。「etu」はインポートのモノがメインというわけではないので、それくらいで十分なんです。だけど前回のフランスものはみなさんとても喜んでくださったので、また機会があれば買い付けに行きたいですね。いつになるかはわかりませんが。

以前「渡りもの展」という、海外から日本に渡ってきたものに絞った展覧会をしたこともありました。今はこういったご時世なので国外に行けなくなってしまいましたが、今回に限らず様々なことは世の中の事情で変わるものですよね。時を待ちます。

外国語は全然話せませんが、今はスマホ一つあればどこにでも行けまするし、文字だって読める。だから言葉はますます覚えないのですが(笑)、覚えなくたってどこへだって行けるなと思いました。どこに行っても楽しい、美味しい、を楽しめる世の中になりましたよね」。

「etu」さん移転の折、建物の軒に廃材を活用して壁を立てた。大小色とりどりの窓がアイコニックで可愛らしいですね
壁の中は縁側と土間の中間のような空間。コロナ以前はここで珈琲などを出していたそうです

古道具に限らず、自分の「好き」を見つけてそこに向かう行動力は幸福の資本でしょう。楽しい・面白い・美味しいと思う場所やモノに辿り着く力を持っている橋本さん。物選び、お店で扱うものはどんな風に選ばれているのでしょうか。

「直感ですよ(笑)。行きたいと思ったところに行っているだけです。うーん、よく聞かれることではあるですが、なんだろうな…。とにかく、自分が好き、良いと思うモノを選んでいると思います。これと決めていることはないのですが…。古いモノの中でも、自分の中でのブームがその時々で変わっているなと思うんです。以前は昭和レトロと呼ばれるモノも好きでしたが、いまは全く興味がなくなったりとか。

旧洋裁女学校跡でお店をしていた時には、閉校になる学校に呼んでいただいて、靴箱や机といった大きな家具を仕入れていた時もありました。今のお店はそもそも売り場の広さが違うこともあってラインナップもかなり変わっています。海外のヴィンテージ物を置くようにもなりました。その時の状況や感覚と共に選ぶモノが変わっているので、もしかすると『前は好きだったけど、今は…』というお客様もいるかもしれませんよね。だけど全てのお客様に合わせることは難しいですし、本当に自分の感覚を信じるのみだと思っています。

以前、阿蘇神社の参道では「旅する蚤の市」というイベントが開催されていました。いま合志市のカントリーパーク(正式名称:熊本県農業公園カントリーパーク)で開催している「九州蚤の市」は、この「旅する蚤の市」を前身としているんです。阿蘇神社が被災して使えなくなってしまって、あちらに移動したんですね。

昨年久しぶり友人に会いにと遊びに行った九州蚤の市で「etuさんは出展しないの?」と聞かれたんです。だけどいざ参加することを想像すると何を持って行けばいいかがわからないなと思いました。他の方と同じようなモノを持って行っても仕方がないし。個性のある古道具ってなんだろうと考えさせられましたね。

こういう古道具の仕入れは、競り場で入札して購入することもできるんです。だけど私は値段や時間を競うということが苦手で、そういう場には行きません。何カ所かあるお気に入りの場所から選んでいます。あとはある程度長くお店をしていたことで、引越しする家や廃業する場所があるから買い取りに来てほしいとお誘いを頂くことも増えてきました。だからもしかしたら他のお店とは違った変なモノもあるかもしれないですね。私は、あまり人と一緒というのは面白くなくって。なにせ古いものですから、傷や味わい含めて全て一点ものであるところが魅力だと思っています。だから出会いがあるのかないのかすらも、その場に行ってみないと分からないものなんですよね。

ただ、自分が良いと思うものが必ず売れるというものでもないです。逆にどうだろうなと思っていたものを気に入っていただけたりもします。モノの価値は自分が考えている尺度だけではないと日々感じていますね」。

心地の良い異国感。未知との遭遇。並ぶ物々を眺めているだけで、つい想像力を掻き立てられてしまうラインナップです

様々な場所から様々な人が訪れる阿蘇という場所だからこそ、いろいろな価値観が出入りするのでしょう。たくさんの感性が交差する場所に、様々な時代を越えてきた古道具があるからこそ、未知との遭遇のような出会いがあるのかもしれません。13年、根の張った軸を持つ「etu」さん。ラインナップの変化を経たとしても「etuさんにある」「etuさんが選んだ」ということが魅力のひとつになり得るのでしょうね。

橋渡しとして存在すること

現在、阿蘇は一の宮に店舗を構えている橋本さん。お店とは別に、合同展示会「一滴の会」を定期的に開催されています。

「この展示会は以前住んでいた熊本市内の古家から始まって、今でも年に2-3回続けているものです。黒髪にある陶季さん(陶器・グラスのお店)と合同で開催しているもので、毎回「衣食住美識」というテーマで作家さんにお願いして展示・販売会をさせていただいています。最近は熊本市西区の島田美術館さんを会場としてお借りしています。島田美術館さんは私の好きな場所だし、阿蘇に比べれば街中に近いからお客様も来やすいですよね。場所が変われば出会う人も変わります。ここで出会って、阿蘇のお店まで足を運んでいただいた方もいらっしゃいます。

元々作家さんのモノづくりがとても好きで。私も陶季さんも、お店の中の一部をギャラリースペースとしてそういった作品を展示させていただいていたことがあったんですね。だけどお互いの店舗ではどうしても限りがあって。ここではできないようなモノや食、作家さんの作品の展示をやりたいなと思って始めました。これまでには絨毯や陶芸、染物といった作品を展示させていただきましたね。普段お店に来てくださるお客様にも、展示会ではいつもとは違ったモノに触れていただいたり、非日常感を味わっていただきたいなと思っています。

次の一滴の会は7月ですね。民芸をやるつもりで、大分の竹細工作家さんと、岡山のガラス作家さん、沖縄のやちむん(焼物)をと考えています。今は海外までは行けませんが、少しだけ遠くのものを楽しんで頂ければと思います。

ちなみに次のゴールデンウィークには一滴の会とは別の企画も考えています。震災から5年という節目として「タツ・カク・ツナグ展」という展示会を開催します。大分のthe cabin companyさん、先程お話したシャツ屋のgogakuさん、そしてetuの三組で開催予定です。(イベント概要はこちら

いつも陶季さんとお話していることがあります。色々なモノを見て触れて人に見せて、というお仕事だから、多少なりとも目利きにはなっていかなければいけないねって。さっきの海外の話でいえば、自分でその土地まで足を伸ばす機会のない人にも、そこで大切にされてきたモノを見せたいと思っています。これまで遠い存在だったモノを皆様に見せられるような…。やっぱり「橋渡し」ですよね。そういう風になれればいいなと思っています。

こういう仕事だから定年もないし、古物を探して、お手入れをして、店に出して。そしてまた家に帰って、と。元気でいればずっと続けられる仕事だと思うので、きっとこれからもこういった生活を続けていくんだろうなと思います」。

etu

熊本県阿蘇市一の宮町宮地1859

tel.090-3665-8290

熊本の人を辿る、KumamotoZINE。その他の記事はこちらから

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