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神水公衆浴場 | 萌える建築

神水公衆浴場 | 萌える建築

オオハラ ユキエ
  • WORDS & TITLE DESIGN by Yukie Ohara
  • PHOTO by Dai Hashimoto
神水公衆浴場_萌える建築

今回の建築

神水公衆浴場

熊本県庁通りと東バイパスが交差するあたり。大きな幹線道路沿いに現れた、ひときわ目をひく1軒の銭湯。「神水公衆浴場」という文字に見慣れた湯気のマークがゆらめきます。暖簾をくぐると気さくな番頭さんが出迎えてくれました。軽快な挨拶はまさにイメージ通りの”銭湯”。その第一声に安心する一方、イメージとは真逆の新しくきれいな装いにドキドキ。なにやら気になるこの建物。その詳細に迫ります。

今回お話を聞かせていただいたのは、神水公衆浴場のオーナーをされている黒岩 裕樹さん。黒岩構造設計事ム所の構造設計一級建築士であり、この公衆浴場の建築も自らの企画によるものです。

神水公衆浴場_萌える建築

市民として、自分ができること

銭湯のあるここ、熊本市中央区神水(くわみず)は、黒岩さんの地元。幼い頃から長い時間を過ごし、慣れ親しんだ場所です。ところが2016年4月、突如襲った熊本地震により、住んでいた自宅マンションは大規模半壊。解体せざるを得ない状況に。その後生活する場所を確保するため、近くに家を再建することになりました。しかしこの辺りは、震災の影響からマンションが増加し、店舗や商業施設が減少傾向にある地域。町としての賑わいも消沈気味で、夜はかなりひっそりとしているそう。黒岩さんは自身の住まいの建築にあたって、何か町に活気を与えられるような建物をつくりたい、と思ったそうです。

元々構造設計事務所の建築士として活動されている黒岩さん。仕事柄周辺地域の地盤に詳しく、この辺りに水源が出ることに目を付けたそう。

「熊本は資源が豊富なのに、活用できてないのはもったいないと思うんです。そういったものを利用しながら町を活気付ける“きっかけ”を継続的につくりだすこと。そしてそれを行政や力のある誰かに頼るのではなく、市民として能動的に動くことが必要だと思うんです」。

自身の本業の知識から、熊本の豊富な地下資源を活かした建物をつくることを選択された黒岩さん。本来は“家”という小さな集団の場づくりであったところを、“銭湯”として営みをひらくことで、生まれ育った町へ“きっかけ”を与えることに。

神水公衆浴場_萌える建築

災害時の防災拠点として

4年前、熊本地震の被災時には多くの人々が避難生活を強いられました。また家自体に被害がない場合も、電気や水道といったライフラインの停止により、自宅での入浴は困難に。入浴支援を行なった民間の銭湯には、行列が出来るほど多くの人が押し寄せました。風呂場はすし詰め状態でしたが、身体を流せるだけでもありがたい状況。少ないお湯を分け合いました。

 

個々人が被害に遭った時、町全体が被災した時、地域のインフラストラクチャ―やコミュニティの拠点として、銭湯は非常に重要な役割を発揮するでしょう。小規模でもいいからそういった施設を複数存在させることで、非常事態の緩和に貢献したいと黒岩さんは語ります。

神水公衆浴場_萌える建築

とりわけこういった住宅街は、パブリックな施設が一つできることで人の流れが変わります。地域の人の立ち寄り処としての役割はもちろん、実際この神水公衆浴場が建築されてから、通りの人通りも増加したそう。「通りが明るくなったからですかね。セットバックして道路面が広く見えるようになりました。店舗の正面はガラス張りだし、今はお花も置いています。こういう建物が連続する通りになれば、もっと人通りも増えるんだろうなと思います」。と黒岩さん。

二度の地震に耐える構造

神水公衆浴場_萌える建築

建物は総2階の木造建て。1階は銭湯、2階は住居として黒岩さんご家族が生活されています。

2016年の熊本地震では、本震と前震の二度の震度7を観測する揺れが発生。その経験を踏まえて、二度の大きな揺れに耐えられる形に設計されました。一度目は耐震壁が建物を支え、二度目(耐震壁の崩壊後)は天井梁が建物の崩壊を防ぎます。天井をメッシュ状に這う梁は「重ね透かし梁」。価格が抑えられる間伐材を用いて、三層に重ねました。二股に分けることで更に耐力をあげています。

一度目の揺れに耐える耐震壁
一度目の揺れに耐える耐震壁
二度目の揺れから建物を守る梁
二度目の揺れから建物を守る梁
外から内まで、1階天井をメッシュ状に這う梁。ガラス張りのファサードから伺える様子は見た目にも美しい
外から内まで、1階天井をメッシュ状に這う梁。ガラス張りのファサードから伺える様子は見た目にも美しい

2階住居部分はキッチンを中心に東西に抜ける空間。両面ガラス貼りで、通りの街路樹を借景としています。風呂場は1階銭湯のみ。

神水公衆浴場2階住居部分
2階住居部分。アーチの開きを水平材で留めて安定させている。造作家具も構造材と同じCLTで造りつけた。9mスパンの大空間を実現できるのは巧みな構造設計のおかげ。(撮影:小川重雄)

外観からも伺える丸みを帯びたヴォールト屋根。これは将来的にロフトを追加することを想定し、2階上部に空間を確保するため。湾曲材はお金がかかるので、CLT(板を積層した木材)を桶状に継ぐことでアーチ状の天井を実現しました。継ぎ目は金物を使うと特注となりコストが上がるため、木製の蝶々型ちぎり(バタフライジョイント)で留めています。

2020年9月「史上最大級」と予測された台風10号の上陸前には、オーナー自ら木材を追加で打ち付け補強を図ったそう。木造建築は、思い立った時に自分で手を加えられるところが魅力です。

屋根部分をよく見ると、蝶々型のちぎりを発見
屋根部分をよく見ると、蝶々型のちぎりを発見
脱衣場からも街路樹の緑が覗く
脱衣場からも街路樹の緑が覗く

この地域は防火地域(防火上の規制が最も厳しい地域)。外壁材にも不燃性が求められるため、銅板葺きとしています。銅板は日が経つごとにくすんだ青みが増し、味わい深い見た目をつくりだす材料。古い日本建築、とりわけ神社・仏閣の屋根によく用いられます。建築地のすぐ近くに位置する健軍神社が銅板葺きの屋根を持つことから、神水公衆浴場にも採用されました。

神水公衆浴場_萌える建築

銭湯の湯気は木部に影響しない?

佐賀県の一部には、有明海に面した土地柄に由来した軟弱な地盤が見られます。そういった地域で用いられている木杭(木製の基礎杭)の様子を観察すると、多量の水分を含む土地に長期間埋蔵されながらも、腐食は見られないとのこと。またオランダ等海外諸国では木杭がスタンダードとされている地域もあります。つまり木材の腐食の原因は、水分ではなく金属成分や虫害によるものである可能性が高いのではないかと黒岩さんは推測します。

神水公衆浴場は、合板も角材も檜。比較的水に強い木材を使用しています。木材の変化に関しては大学と共同研究中であり、経過を観察しながら今後調整を加えていく予定。先に述べたように、木造建築は経年で変化する様子を見ながら自分で調整をしていけることが魅力のひとつです。実験的要素でもありますが、黒岩さんは毅然と構えます。「自然体でいいと思っています。銭湯としての営業も、大繁盛して欲しいというわけではない。そもそも自宅ですし、本業もありますしね。成るように成ればいいですし、自然の摂理に従います。」

神水公衆浴場_萌える建築

建築を守るのではなく、人を守るための建築

世界には美術品のように永く愛され“守られる建築”もあります。しかし建築の要素は美しさだけではありません。殊更に人と密接に関わる場では“人を守る建築”が必要でしょう。そして、建物としての堅固さはもちろん、ソフト面、とりわけ非常時に係る強さを見せてくれたのが、この神水浴場であると思います。

まち単位の防災機能や地域内の繋がりは、自分自身や大切な人を守るための鍵になるもの。多くの災害を経験してきた私たちは身を以って感じています。そういった人の流れをコントロールし、社会の流れを変えることも建築の意義のひとつ。ハード面、ソフト面、建築の二面的な強さの両立。それは災害大国に生きる私たちにとって、建築の未来をつくるロールモデルとなり得るのではないでしょうか。

神水公衆浴場_萌える建築

神水公衆浴場

竣工/2020年

施工期間/7カ月

所在地/熊本県熊本市

主要用途/公衆浴場併用住宅

構造/木造2階建て

意匠設計

西村浩/ワークヴィジョンズ

竹味祐人/竹味祐人建築設計事務所

佐々木郁/ディコーズ株式会社

 

構造

黒岩裕樹・黒岩ヒロ子/黒岩構造設計事ム所

 

設備

仲西隆幸/環境エンジニアリング

 

電気

成田賛久/環境エンジニアリング

 

施工

現場監理

川嵜義彦/たねもしかけも

野田浩平/住管理システム

 

大工

塚本武寛/ツカモトコウムテン

北村努/大工太鼓

西村郁也/西村住宅

 

板金

井出浩一郎/井出板金建装社

上田板金/上田一徳

営業日:月・水・土・日 16時~20時

定休日:火・木・金

駐車場:徒歩2分「マリオネット駐車場」

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