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FIL | Fulfilling life=” 満ち溢れる人生”とは | KumamotoZINE

FIL | Fulfilling life=” 満ち溢れる人生”とは | KumamotoZINE

Hiroko Sonezaki
MASS Series Lounge Chair -Natural Wood & Copper Frame-
MASS Series Lounge Chair -Natural Wood & Copper Frame-
肥後銀行 子飼橋支店 PHOTO by YOSHIKAZU SHIRAKI
FIL フラグシップショップ +13
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MASS Series Lounge Chair -Natural Wood & Copper Frame-

12 月のある日のこと。SNS のタイムラインをぼんやりと眺めている最中に、スクロールする指が思わず止まった。私の目を釘付けにしたのは、肥後銀行・子飼橋支店の新築移転を知らせる広告画像。木材のぬくもり伝わる、その魅力的な内観に、どこが手がけられたのだろうかと調べてみたところ、どうやらFIL というブランドが企画・内装設計を担当されたと判る。すぐさまホームページを覗いて見れば、現れるプロダクトのどれも美しいこと。「こんな素敵な会社が熊本に!これはぜひ、お話を伺いたい」。ご連絡をしてみると、すぐに取材をご快諾下さった。こうしてLogicZine編集部一同は、FIL のフラグシップショップがある阿蘇郡南小国町へ、嬉々として車を走らせた。

肥後銀行 子飼橋支店 PHOTO by YOSHIKAZU SHIRAKI
肥後銀行 子飼橋支店の内観写真。

まず、道中の景色に目を奪われる。文字通り、霧が立ち込めて、何も見えないのだ。ここは天国かと見紛うような幻想的な風景を突き進み、目的地への期待は最高潮に高まる。白い靄が徐々に薄れ、日光の暖かみが少しづつ辺りを照らし始めると、目の前に広がるのは息を呑むほど広大な大自然。これらの風景が、この後お聞きするお話に深く関係していく。そこにあるものの価値について、そしてその未来について。FIL のブランドマネージャーを務められている、穴井 里奈さんにお話を伺った。

山々を霧が包み込む幻想的な風景

いい香りのする場所で

FIL のフラグシップショップがあるのは、阿蘇郡南小国町満願寺。山裾を左に、田園を右にと、長閑な原風景が360°取り囲む、眺望豊かな土地。建物は3つのブースに分かれており、中央がプロダクトを販売するショップ。正面向かって左側が、後ほど話題にのぼる「Fab Lab」と呼ばれるスペース。右側は、エッセンシャルオイルの抽出場「FACTORY」だ。

FIL フラグシップショップ
南小国の里山を背景に建つFIL︒中央がSHOP︑左がFAB L AB︑右がFACTORY で構成される

平屋造りの建物中央から「こんにちは」と中に入ると、見事に切り取られた景色が眼前に広がる。そして何やら、いい香りに包み込まれ、一同うっとり。「どうぞお座りください」とのお声かけに目を覚まし、座らせて頂いた椅子の素敵なこと。ご丁寧に淹れて下さったハーブティーがこれまた良いお味で、何か特別な生き物に進化したような心地になってしまう。

FIL STORE 内
小国杉の香りに包まれた FIL STORE 内。呼吸をする小国杉の梁や柱から時折「パキッ」と音がするそう。設計は『ようび建築設計』大島 奈緒子 氏・与語 一哉 氏が担当。内装デザインは『canuch Inc.』木下陽介氏・野口優輔氏が担当

「すごくいい香りがしますね」。

素敵さに圧倒されながら、ありきたりな感想をどうにか発しつつ、少しづつお話を伺っていった。FIL は、穴井さんと旦那さま、また東京やパリのクリエイターが関わり作られた、小国杉を中心としたインテリア・ライフスタイルブランド。旦那さんの本業はこの小国杉を建築材として販売している製材所。そして、この製材所で出る端材の利活用がFIL の始まりとのこと。

「近くにある黒川温泉の旅館の女将さんから、端材を使って、お客様にお出しする酒器を作ってもらえないかとご相談頂いたのがきっかけです。もしかしてこれは、思った以上に需要があるんじゃないかと思い、熊本市まで行ってマルシェなどで商品を販売してみたところ、すごくたくさんの方が買って下さって。これはプロの方に相談して、本格的に進めた方がいいと感じ、現在のFIL に至ります」。

穴井里奈さん
お話を伺ったのはFIL のブランドマネージャーの穴井里奈さん

はじめに相談したのは、海外で多大なる評価を受け話題となった「KUROKAWA WONDERLAND」に携わられた映像クリエイターさん。そこからWEB、広報、ブランディングなど各分野から気鋭のプロフェッショナルが集まった結果、現在のクオリティの高いブランドイメージが作られているのだそう。それだけ多くの方が協力される理由は、穴井さんご夫妻の取り組みが持つ意義と、そこにかける想いが明確だったからだろう。根幹にあるのは、南小国と阿蘇の暮らしを、もっと多くの人と共有したいという想いだという。

「FIL という名前は“ Fulfillng Life”、つまり『満ち溢れる人生』を意味しているんです。FIL のプロダクトは全てこの南小国町で育ったものを材料にしています。ブランディングに際しても、入念にフィールドワークを重ね、この土地にあるストーリーを最大限活かすように尽力しました。遠い海外でも届けられるように、ホームページもこだわって作りました。この土地の暮らしや想いを小さなプロダクトにすることで、たくさんの人の元に届けられるようになる。FILをきっかけに、今よりも多くの人がこの土地のことを知って、ここに来てくれるようになる。そういう目的があったので、海外の雑誌やメディアに取り上げてもらえるような広報活動を最初から意識して行って来ました。実際、このフラグシップショップを目当てに南小国を訪れてくれる方が増え、とてもうれしいです」。

FIL STORE
阿蘇の山並みをモチーフにし たという小国杉のレリーフ
FIL STORE
お正月のスワッグや、火を灯さないアロマキャンドル「タボレッタポプリ」作りのワークショップなども開催。小国杉の香りを暮らしの中に取り込むアイデアを形にする

魅力を最大限に使い切る

FIL のプロダクトについてお話を伺うと、何から何まで筋が通っていて圧倒される。例えば、家具の数々。元々、杉で出来た家具というのはほとんど市場になかったらしい。杉は湿度調整機能が優れていて、家を建てるにはぴったりの材だが、家具となると使うのが難しい。湿度によって割れ目が出ることがあるからだ。切り出し方によって、その形状の変化を最小限にすることは可能だが、そのように綺麗に切り出された杉材を見つけるのは、なかなか難しい。しかし、穴井さんご夫妻の本業は製材所。切り出しも自社で行われており、高品質な小国杉の調達には困らない。また、小国杉の特徴は、ピンク色の木肌。通常焦げ茶色になる年輪の中央が、少し赤みがかっている。この色味を気に入って、床材として小国杉を指名する人も多いと聞く。木の色に併せて採用されているピンクゴールドの金物も、FIL の家具の存在感を強めている。これらのアドバンテージが活かされたFIL の家具は、全国どこでも、海外でさえもお目にかかれない、美しく希少で、且つ他に真似できないものになり得ている。しかも使用しているのは間伐材であり、サステナブルなモノづくりを実現されていて、素晴らしいとしか、もう言いようがない。

MASS Series Lounge Chair -Natural Wood & Copper Frame-
無垢の小国杉を用いたイージーチェア。 脚の長いダイニングチェアもある

サステナブルの文脈で見ると、FIL のもう一つの看板プロダクトであるアロマオイルにも驚かされる。FILのエッセンシャルオイルは、切り倒した小国杉の葉の部分を材料として作られている。木を伐採する木こりさんから、木を切り倒した後、廃棄物となってしまう枝葉の部分を穴井さんが買い取り、穴井さん自らオイルを抽出されるそう。葉の部分を加熱し、発生する蒸気を集めて急速に冷やすとオイルになるとのことで、枝の部分は葉の加熱時に活用される。更に抽出に使用した後の枝葉を肥料として使い、お米の栽培もされているとのこと。完膚なきまでに無駄がない。

「初めはこの抽出作業を、自宅のガレージで一人でやっていたんです。外から見たら、怪しい人だったと思います。大量の杉の枝葉を引きずってきて、中からは煙が出ているし(笑)。出来上がったエッセンシャルオイルは、フランスで活動されている Miya Shinma PARFUMSさんに調香してもらい、阿蘇の溶岩でできたポプリを販売しています。オイルの抽出を始めた頃、Miya Shinma PARFUMS の新間美也さんに直談判で調香をお願いしてみたら、偶然にも新間さんのご実家も製材所で。快く引き受けて下さり、テスト用のオイルを作ってはフランスに送り、サンプルを返送してもらうことを繰り返して、今の香りが完成しました。このフレグランスオイルの名前『Susano 素戔嗚』は、杉がスサノヲの頬髭と顎髭から生まれたという日本書紀の内容から引用しています。オイルの香りを広げるためのポプリには、阿蘇山の溶岩を使いました。小国杉が育ったのは溶岩帯の上なので、自然のままを遠方でも追体験してもらえたらと思い、このような形にしました。」

抽出したエッセンシャルオイル
このフラスコ1 本分に約90kg の杉の葉が必要。後ろは抽出器
Susano 素戔嗚
Miya Shinma PARFUMSさんに調香してもらい、阿蘇の溶岩でできたポプリ

30kg の葉から、やっと100ml のエッセンシャルオイルが採れるとのこと。今では専用の抽出場も出来て、少し楽になられたとのことだが、サンプル作成時期の穴井さんのご苦労は計り知れない。どれだけの杉の枝葉を引きずり、何度同じ作業を繰り返し、利益が出ない中で耐え忍ばれたのだろう・・・。思いの強さを感じるエピソードだ。

原料となる杉の枝葉
エッセンシャルオイルの原材料は、枝打ちで山に放置されるはずだった枝葉。木こりさんから買い取ることでサステナブルな取り組みになっている。穴井さんの発信 するポリシーを受けて、自分たちの持っている豊かな価値に気付き始めている地域の人たちも増えてきた

関わり方を変え、関わる場所を作る

雄大な自然に恵まれ、近くには黒川温泉がある南小国町だが、それでも住人は減っているという。穴井さんによると、南小国町では、子供達は中学生になったら町を出るらしい。この日は穴井さんのお子様とご友人が、元気に外で凧揚げをされる様子を見ながらのインタビューで、町を離れる時期の話をする穴井さんは少し寂しげであった。「可愛い子には旅をさせよ」とはよく言うが、住み慣れた土地を離れる体験は、穴井さんご自身にもあった。

小国町の住まい手
「凧の糸が切れて飛んで行った!」と報告にきた穴井さんのお子様とご友人

「私と夫が出会ったのは、イスラエルなんです。たまたま同時期に、留学だったりワーホリだったりでその国にいて。イスラエルにいる日本人なんてたくさんはいないので、コミュニティが小さいから、顔は知ってたんですけれどね。話したことはなかったです。ちゃんと知り合ったのは、これまたお互い別々に東京に住んでいた時で。本当に奇遇ですよね。私はこの土地の出身ではないですが、夫は南小国で生まれ育って。だから特別思い入れがあるんですよね。FILのフラグシップショップも、熊本市内や東京とかに出した方が良いんでしょうけれど、ここに作ることに意味があって。この土地に来ないと分からないことが、やっぱりいっぱいあるんですよね」。

小国町の風景
穴井木材工場まで歩いて5 分程度。川沿いには桜並木と畔が仕切る長閑な風景が広がる

一度離れて行った人々が、また戻ってくるというのは大変なことだ。食べていかなければならないし、暮らしにはたくさんの要素が必要だから。それでも…と穴井さんが仰るのは『関わり方を変えれば、関われる人は増える』ということ。そのような想いから取り組まれているのが、先述した正面から左側のゾーン「Fab Lab」だ。

「最近は3D プリンター技術も発達してきています。設計図をネットで取り寄せて、材料を入れれば図面通りに自動で切り出され、それを組み立てるだけで物を作ることができる時代です。「Fab Lab」というのは、3D プリンターやカッティングマシンなどの工作機械を備えた、実験的な市民工房のネットワークです。「Fab Lab」は世界中に存在していて、各拠点から様々な知見が集まり、それを共有しあっています。このような最先端のノウハウを得られる場をこの地に作ることで、南小国の子供達に学ぶ機会を提供し、小さな町にいても、広い視野を身につけることができる。そして、また戻ってくる理由が作れたらと思い、「Fab Lab」をここに誘致しました」。

Fab Lab
250年という歴史のある林業の町から、モノづくりのアイデアを共有しあい 世界中と繋がる「Fab L ab」。この日はFIL の若いスタッフさんや、インター ン中の学生さんもモノづくりに没頭していた

FIL の建物の中で唯一町営のこの「Fab Lab」は、日本国内でも数カ所、九州に絞れば3ヶ所、熊本では1ヶ所しか存在しない。まさにモノづくりの最先端の知見を、誰しもが享受できる場であり、研究所や大学のゼミなどによる視察の足が絶えないという。家というモノを作っている私たちにとっても、夢のような話だ。また凄いのは、これが町営の施設だということ。「このように大きな話を、町を巻き込み動かされるというのは凄いですね」。とお伺いしてみれば、やはりご苦労されたのだとか。

「さっきの話ではないですけれど、私たちが何をやっているのか、どうしてやっているのかを理解してもらうのはなかなか難しいです。そんな中でも、南小国の町長さんが私たちに言ってくださった言葉が嬉しくて。『出る杭は打たれると言うが、打てないくらい出てしまえば良い』。そんな風に言って下さったんです。できるだけ遠くに、たくさんの人に届けることができれば、必ずこの土地の恩恵に繋がる。だから私たちは、この土地と人が繋がるように、多くの人々にプロダクトを知ってもらいたいと思っています」。

大ケヤキ
集落を身守るようにそびえる神社の大ケヤキ(右中)。風が落ち葉を散らしていたが、そのきらめきが手招きに見えた。御神木だと聞いて帰りに立ち寄るつもりが失念。 また訪れる理由ができた

町の話だけではない。林業だって、建築業だってそうかもしれない。それが分かる人、身近な人を集めても、未来はない。知らない人が「面白い」と感じ、初めて見る人が「素晴らしい」と言う。そういう接点を柔軟に作り続けることで、次世代へと技術が伝わり、より良いものへと磨かれていく。大事なものを守り、残すために、関わり方を変える。そんなアイディアを考えてみたい。穴井さんのお話を聞いて、私はそのように感じた。

過去から受け継いできたものの素晴らしさを再発見し、良いものをたくさんの人に伝えることで、守り抜く為の環境が整っていく。人が集まり、ノウハウが集まり、より良い未来につながっていく。そのためにどうブランディングしていくのか。どんなプロダクトを作り、どのように広報活動を展開していくのか。そして全ての根幹にあるのは、その取り組みに対する想いの強さであることを、今回のインタビューから深く知ることができた。

FIL STORE

恐らくまたここに来てしまう。
この場所のこれからが見たいから。

穴井さん、FIL /穴井木材工場のみなさま、
お忙しい中お時間を頂き、誠にありがとうございました。

オリジナル風呂敷
お買い物するとFIL オリジナルの風呂敷に包んでいただきました
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