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PSオランジュリ | 萌える建築

PSオランジュリ | 萌える建築

オオハラ ユキエ

今回の建築

PSオランジュリ

( 旧第一銀行熊本支店 )

熊本市中央区中唐人町

登録有形文化財にも指定される

「PSオランジュリ」。

歴史を模る佇まいは

この建物を、日本を、環境を、

長く愛し続けてきた人々の賜物。

 

その建築から100年

再生と進化を続ける建物の

お話をお伺いしてきました。

1919から2019へ

熊本城を中心に街を形成する熊本市。城下町として栄えた地域には未だ100年を超える歴史を模(かたど)る景色が残っています。その一画、唐人町・米屋町の交差する場所は当時の目抜き通り。坪井川の流れに沿うように、町屋造りの建物がいくつか見られます。川に架かるのは石造りの明十橋。築造から140年余りが経過しているそうで、正式な番地とは別に、この地域が「古町」とも呼ばれているのも納得です。

ここに建つのが旧第一銀行熊本支店(現PSオランジュリ)。大正時代に建てられた歴史的組積造(そせきぞう)建造物。後の銀行建築の名匠となる西村 好時の設計です。近代化の歴史を感じさせる堂々たる姿は当時の威厳をそのままに。現在も建物は活用されており、冷暖房機器メーカーのショールームとして未だ現役で稼働しています。

建設当時はモダンなランドマーク的な存在。卸問屋街として賑わった当時の唐人町でひときわ目を引く近代的な建物でした。最上階の三方には独立した小部屋が物見櫓のように今も残る
建設当時はモダンなランドマーク的な存在。卸問屋街として賑わった当時の唐人町でひときわ目を引く近代的な建物でした。最上階の三方には独立した小部屋が物見櫓のように今も残る

旧第一銀行の建造は1919年(大正8年)。当時の建物といえば屋根の低い町屋造りが基本で、背の高い銀行は町のランドマークでした。大正建築といえばゴテゴテとした装飾的な意匠を思い浮かべますが、旧第一銀行の外観は軽快な印象です。

建物は1971年に旧第一銀行としての利用が終了後、1996年まで熊本中央信用金庫として利用。その後は建物の老朽化により取り壊しがほぼ確定していましたが、NPO法人「熊本まちなみトラスト(※)」の活動により、保存を願う1万5千名を越える市民の署名が集まりました。1997年ピーエス株式会社が土地建物を取得し、翌年には国登録有形文化財に指定されました。1998年から2001年にかけて改修工事を実施。「PSオランジュリ」として生まれ変わりました。

その後の熊本地震にて、レンガ壁の亀裂、漆喰塗の天井の崩落、外タイルの割れなどの被害を受けたため、改修工事で暫く閉館となりました。そして2019年9月30日、新たな100年に向けてオープンする運びとなります。

※「熊本まちなみトラスト」…”記憶の継承”を基本コンセプトに、熊本市の近代建築の保存活動を行う市民団体(2017年よりNPO法人)

“室内気候”を整える

“オランジュリ”とは、もともと中世ヨーロッパにおいて、ガラスでつくられたオレンジ園のこと。オレンジの香りと暖かい日差しにあふれるオランジュリは、厳しい冬の間も自然の中にいる心地よさを感じられる特別な場所でした。自然で心地よい室内は、きっと日常をより美しいものにかえてくれるでしょう。ピーエスオランジュリは、21世紀のオランジュリを提案します。

(PS COMPANY, LTD Orangerie より抜粋)

正面扉を開ければホールスペース。白壁に包まれた高い吹き抜けのある大空間が広がります。中央には地下に繋がる大きな階段。由来通り、まさしくオレンジ園のような、穏やかで清澄な空気が流れていました。

階段を降りると窓から坪井川の流れが見えるが、以前は光も入らない閉ざされた空間だった
階段を降りると窓から坪井川の流れが見えるが、以前は光も入らない閉ざされた空間だった

今でこそ明るい日が差し込む開放的な空間ですが、PSオランジュリとして生まれ変わる前は暗く閉ざされた空間だったとのこと。吹き抜けには天井、中央の階段はコンクリートで塞がれており、地下・ホール・吹き抜けは完全に分断された空間でした。

建造当時の図面を拝見させていただいたところ、地下空間は食堂・湯殿などの記載がありました。後には資料室としても利用されていたそうですが、水害被害の防止のため窓はコンクリートで埋められ、真っ暗で次第にカビ臭い空間に変貌。古いレンガ造りということで冬は寒いし夏も暑い。地下だけでなく1階部分でさえ採光が取れない最悪の環境でした。

大正スピリットを今に伝える建設時の貴重な図面(コピー)。設計者・西村がアメリカ留学から持ち帰った鉄筋コンクリート構造への挑戦の軌跡
大正スピリットを今に伝える建設時の貴重な図面(コピー)。設計者・西村がアメリカ留学から持ち帰った鉄筋コンクリート構造への挑戦の軌跡

ピーエス株式会社はこの環境をどうにか改善しようと実験を重ねます。最初に施したのは、天井を取り外し一部に二階フロアをつくること。空間は一気に明るくなり、空気は循環し始めます。そして地下に続く階段をつくることで建物内の空気は全体を循環するようになったのでした。

ピーエス株式会社は冷暖房製品と加湿器のメーカー。”室内気候”を整えることで、日常の暮らしをより豊かにします。私たちが訪れたのは肌寒い時期。PSオランジュリ内に設置されているヒーターの中には、触れるとじんわり温かさを感じられる程度の水が通っていました。一般的なエアコンのように加熱された空気を一気に室内に吹き込んだ場合、対流により高温の空気は上方に溜まってしまいます。一方で放射による暖房は吹き抜け空間でも大きな温度差が生じません。放射される熱によりゆっくりと、部屋全体の空気を温めます。

柵を兼ねるのはPSの商品でもあるラジエータ型の冷暖房機器。ポンプで水を循環させる
柵を兼ねるのはPSの商品でもあるラジエータ型の冷暖房機器。ポンプで水を循環させる

時間の経過を形にする

旧第一銀行のリノベーションデザインは80年代ピーエスでインターシップを経験し、企業コンセプトに精通していたデンマークのデザイナー、トーベン・ヴィンドネス。施工はサンワ工務店の山野潤一氏が担当しました。『時を感じる建築』をコンセプトとし、本来の姿、変遷を表す姿、最新の姿、移りゆく時を建物に落とし込んでいます。これまでもこれからも建物の価値を継承し、積み重ねていく姿勢を感じます。

ホールの奥側は元バックヤード。壁を全て取り払って一つの空間にし、緩やかに空気を循環させ、計画的に“室内気候”を整えます
ホールの奥側は元バックヤード。壁を全て取り払って一つの空間にし、緩やかに空気を循環させ、計画的に“室内気候”を整えます

建物の構造は主にレンガ造で、一部がRC造。元の壁表面は丁寧に漆喰で覆われていましたが、現在は敢えて一部のレンガが剥き出しにされています。元々見せるために積まれたレンガではないので、積み方は粗く、ぽろぽろと粉も落ちてきます。

電気式の”PSドライウォール”は中を温水が循環し、地下室の湿気を柔らかく乾燥に導く
電気式の”PSドライウォール”は中を温水が循環し、地下室の湿気を柔らかく乾燥に導く
床の大理石の下にはかつてのタイル敷きを覗くことができる
床の大理石の下にはかつてのタイル敷きを覗くことができる
構造壁であるレンガ積みはあえて剥き出しに
構造壁であるレンガ積みはあえて剥き出しに
レンガと壁・床がコントラストを生む
レンガと壁・床がコントラストを生む
2階フロアの様子。トーベンから送られたシャンデリアは北欧らしくシンプル且つ個性的なデザイン
2階フロアの様子。トーベンから送られたシャンデリアは北欧らしくシンプル且つ個性的なデザイン
伸びやかでメリハリのある空間、コントラストが効いた素材感が、PSオランジュリの〝萌えポイント〟だろう
伸びやかでメリハリのある空間、コントラストが効いた素材感が、PSオランジュリの〝萌えポイント〟だろう
キッチン室は北側採光で引き締まった光が美しい。器具類も機能的でスッキリ
キッチン室は北側採光で引き締まった光が美しい。器具類も機能的でスッキリ

トーヴェンの出身でもある北欧では、建物を改修しながら住み継いでいく文化が発展しています。そしてその見せ方は、古いモノを古いまま残したかと思えば、洗練された新しいものも混在するスタイル。新旧が調和する心地よさが流れます。

機能と美観を備える

天を仰げばトップライトから入る自然光が建物全体を明るくしていることに気付きます。北向きに設けられた開口から、間接的な自然採光を実現。波打った天井仕上げは、梁を避けて設置する為の実用性と意匠を兼ねた形状です。

1998〜2001年の改築時、自然採光と自然通風のために天井に開口を開けた。鉄骨柱を室内に挿入する際にも生かされた
1998〜2001年の改築時、自然採光と自然通風のために天井に開口を開けた。鉄骨柱を室内に挿入する際にも生かされた

屋上に登れば天窓と太陽光発電パネル。北欧諸国では出来るだけ日光を取り込むために真上向きに窓を設置しますが、ここでは室内に太陽の直射日光が入らないように角度をつけて設置されています。

北東側の物見櫓は階段室を兼ねる。改修工事中には過去の防水層も確認できたそう
北東側の物見櫓は階段室を兼ねる。改修工事中には過去の防水層も確認できたそう
屋上には太陽光パネルが設置され、全館の冷暖房エネルギーをまかなっている
屋上には太陽光パネルが設置され、全館の冷暖房エネルギーをまかなっている
風と光を室内に採り入れるための窓
風と光を室内に採り入れるための窓

「きれいなだけで空っぽの建物はつくりたくない」

PS株式会社代表 平山 武久さんによると、PSオランジュリでは、これからこの空間を活用した様々なプロジェクトを企画しているそう。この100年余りの歴史の上に、更に熊本の人の想いが積み重なっていくことが楽しみです。旧第一銀行、熊本中央信用金庫として、長く金融機関として熊本に貢献してきた建築物。建物としての再生・活躍はもちろん、これからもこの街の人々にとって大切な存在であり続けて欲しいと思います。

《data》

ピーエス株式会社オランジュリ

2003年:BELCA賞(ベストリフォーム部門)受賞、環境・設備デザイン賞(建築・設備統合デザイン部門)受賞、日本建築学会九州支部業績賞受賞

 

〒860-0028 熊本県熊本市中央区中唐人町1

tel/096-356-2201

営業時間/9時~16時

定休日/土・日曜日、祝日、ほか不定休あり

※ご見学やお打合せは事前にご予約ください

設計/ 西村  好時| Yoshitoki Nishimura

1886年1月22日 – 1961年4月30日。日本の建築家。東京に生まれ、東京帝国大学建築学科を卒業後、真水工務所、清水組を経て第一銀行に転じ建築課長となる。旧第一銀行本店(現存しない)、各支店をはじめ、多くの銀行建築を設計したことで知られる。

photo garalley

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