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TORTUE/萌える建築

TORTUE/萌える建築

オオハラ ユキエ
  • 建築に萌えるロジックのスタッフが、身近な建築の萌えポイントを紹介する“萌え建”。
  • 今回は熊本市北区清水亀井にある"暮らしの複合施設"『TORTUE(トルチェ)』さん。
  • PHOTO by Dai Hashimoto & Shinji Shimoda
  • WORDS & TITLE DESIGN by Yukie Ohara
  • RESEARCH by Team"Moe-ken"

今回の建築

暮らしの複合施設

「TORTUE」

ゆるやかな丘にたつ、くらす人が中心の空間。

眺めのいい屋上庭園やくらしを彩るショップたちを備えた、新しいカタチの賃貸住宅です。

ゆっくりと、くらす。トルチェ

トルチェは”暮らしの複合施設”。テナントを併設する集合住宅です。フランス語で「TORTUE」は「亀」。北区清水亀井に位置することから名が付きました。

起伏のある住宅街の一角。急な上り坂の入り口に愛らしい亀のマークを見つけます。迷い迷い辿り着いたのは、周辺の住宅からはあたまひとつ、ふたつぶん飛び出すくらいの丘陵地でした。入り口の狭い坂道からは想像しなかった、広くひらけた場所です。坂を上ればすぐ目の前に現れるのが、”ちょっと変わった形のかっこいい建物”トルチェ。しかし少し中まで覗いてみれば、その特殊性の正体にすぐに気が付きます。

アプローチから駐車場に入ると、2階層のA棟が見えてくる。1階はテナント、2階に賃貸スペースが入る。取材時は土曜日の午前中だったが、奥の『トルチェ・パン』へのお客様がひっきりなしに訪れていた
アプローチから駐車場に入ると、2階層のA棟が見えてくる。1階はテナント、2階に賃貸スペースが入る。取材時は土曜日の午前中だったが、奥の『トルチェ・パン』へのお客様がひっきりなしに訪れていた

ダンジョンみたい

階段を登ったり、降りたり。各部屋にはストレート一本道では辿り着かないつくり。それはこの土地が“ちょっと特別な形”をしているから。というのも、トルチェが建っているこの広い土地の中には、同じ敷地内なのに5mもの高低差があるのです。

もしここによくある一般的な形状のアパートを建てようとすると、土地の高さを揃えなければいけません。しかしこの1000平米を超える土地で、切土(土地を削る)・盛土(土地を盛る)をしようとすると開発許可が必要となり、建築に至るまでの手順が一層複雑になってしまいます。それ故、長い間ここは誰も手を付けない空き地となっていたのです。

土地のポテンシャルを活かす

トルチェのオーナーは株式会社Addit代表の江口  泰史さん。建物や土地、場所の可能性を引き出すような不動産業をお仕事にされています。

丁寧に解説して頂いた『TORTUE』のオーナーでもある江口 泰史 氏。「造成することもできましたが、それではその分を賃料などに転嫁しないといけなくなる。それは避けたかったので」とのこと。常識的な慣習で見過ごされていた土地のポテンシャルを、知恵と工夫で呼び起こすアイデアには脱帽です
丁寧に解説して頂いた『TORTUE』のオーナーでもある江口 泰史 氏。「造成することもできましたが、それではその分を賃料などに転嫁しないといけなくなる。それは避けたかったので」とのこと。常識的な慣習で見過ごされていた土地のポテンシャルを、知恵と工夫で呼び起こすアイデアには脱帽です

狭い間口に高低差のある広い敷地が枷となり、長い間手つかずとなっていたこの土地。しかし「景色の良さ」「風の心地よさ」「熊本中心地への近さ」には、ここにしかない魅力がありました。このポテンシャルを感じた江口さんは、なんとかこの特性を活かすアプローチをしたいと考えました。

建築設計はモリスデザインの四宮  利克さんに依頼。完成したのは、3層に重なるひとつの複合施設。住居スペースが12部屋。ほとんどがメゾネットタイプの部屋。そして全室間取りが違うので、家族連れからふたり暮らし、SOHOなど、多様な生活スタイルが見込まれます。ちなみに取材時(2019年8月)の空室状況は1部屋のみ。狙っている人はお早めに!

丘の上に建つので、周りに見上げる建物はない。吹き上がる南風が心地良い
丘の上に建つので、周りに見上げる建物はない。吹き上がる南風が心地良い
中庭の植栽は緩衝地帯としての役割を果たしている
中庭の植栽は緩衝地帯としての役割を果たしている
可憐なサルスベリの花。造園屋さんもトルチェの一室にオフィスを構える
可憐なサルスベリの花。造園屋さんもトルチェの一室にオフィスを構える
ルーフテラス越しの眺望付きの1LDKが、12戸中唯一の空室(未入居)でした。メゾネットタイプの間取りです
ルーフテラス越しの眺望付きの1LDKが、12戸中唯一の空室(未入居)でした。メゾネットタイプの間取りです

加えて”暮らしの複合施設”ということもあり、3つのテナントスペースも併設。
ひとつはパン屋さん、ひとつは八百屋さん、もうひとつはこれからビストロが入る予定です。

集合住宅では室の間取りは画一されるのが一般的。しかし同じような家族形態、年代がまとまって入居すると、十数年後同じ時期に一気に退室者が増えてしまうこともあります。

この建物の魅力は人々の暮らしがほどよく交わること。
トルチェに住む人、トルチェを訪れる人、トルチェで生活を営む複雑で多様な人の暮らしが交わることで、この場所に継続的な活気と地域性を育みます。互いに干渉し合う環境は、住み手を選ぶとも言えますが、そんな暮らしの豊かさを知る人々は確実に存在するでしょう。

地域が長く愛される場所であるために、ただ建物として入れ物の機能を果たすだけではないのが、この『TORUTUE』なのです。

風の抜けるルーフトップ

トルチェで一番の見どころは、住まう人やテナント店舗が自由に使える広い屋上スペースがあることです。土地に高さがあり建物も背が高いことから、熊本の街中を360度を見渡すことができます。遠くには熊本城、更には金峰山まで。とにかく見晴らしのいい眺望。

空が近く、加えて南から吹き上がる風が心地よいので、喧騒から離れ思い思いに過ごすことが出来そうです。日常生活にこんな場所があれば、毎日の暮らしがもっと楽しくなりそう。夜風に吹かれながらお酒を飲めばどれだけ気持ちのいいことか。これからの時期はテントを張ってお月見会なんてのも素敵。どんどん夢が広がります。これからはこのコミュニティスペースを活かしたイベントも企画中だそう。増々楽しみです。

30坪以上あるルーフテラスは開放感抜群。右手に金峰山、左手に立田山が見え、中央には熊本城を望む絶好のロケーション。ヨガイベントなども開催されている
30坪以上あるルーフテラスは開放感抜群。右手に金峰山、左手に立田山が見え、中央には熊本城を望む絶好のロケーション。ヨガイベントなども開催されている

地域の価値を上げる建築

狭くて暗い場所に居れば怖い。太陽の入る部屋は気持ちが良い。感じ方は人によって個人差はあるが、建築が人の感覚を左右する大きな要素のひとつであることには間違いない。

トルチェという建築は、住まう人の感覚、延いてはこの地域の価値を大きく変えてくれるモノだと感じました。

元はどうしようもない土地だと嫌煙され、だれも手を付けなかった空き地。そこに突如現れた気になる建物。オープンな住居の寛容性、お店から漂ういい香り、笑い声。ここに住まい始める人はもちろん、お店を訪れる人も、建築に誘われてきた人も、ルーフトップから同じ景色を眺め、風に吹かれ、ゆっくりと時を過ごす。

建築は人を変えるだけじゃない。その場所、空間の価値にも影響する。

童話に出てくる「かめ」のように、ゆったりとした時の流れの中の確かな豊かさを教えてくれる建築、それがトルチェの正体でした。

《date》

TORTUE

設計:株式会社モリスデザイン 四宮利克

施主:株式会社Addit 江口泰史

竣工 平成31年4月

photo garalley

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