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吉岡さん家/萌える建築

吉岡さん家/萌える建築

オオハラ ユキエ
  • 建築に萌えるロジックのスタッフが、身近な建築の萌えポイントを紹介する“萌え建”。
  • 今回は鹿児島市にお住まいの元シンケンスタイル吉岡孝樹邸。
  • 「育ち続ける住宅」の秘密を調査してきました!
  • PHOTO by Dai Hashimoto & Shinji Shimoda
  • WORDS & TITLE DESIGN by Yukie Ohara
  • RESEARCH by Team"Moe-ken"

今回の建築

吉岡 孝樹 邸

「玉手箱」と表現される吉岡  考樹 邸。そこから出てくるのは浴びたら年を取ってしまう雲煙、ではなく素敵な暮らしぶりを見せる元シンケンスタイル吉岡さんとその奥様。中を覗けばご家族と共に歴史を刻んできた、愛着がたっぷり詰まったお家でした。

※吉岡さんには現在、株式会社ロジックで、『住まい方・暮らし方』アドバイザーとして、毎月研修を行っていただいております。研修のお話は毎回「吉岡さん家のたのしい経過報告」からスタート。その素敵な暮らしぶりに魅了されるスタッフも。

こつこつ「育て上げた」家

ジブリ映画に出てきそうな、物語的な佇まい。その正体はおそらくこの圧倒的に生い茂る緑のせい。昔の写真を確認すると、住み始めからこうはいかなかった模様で、木の葉が少なくお家の様子を通りからしっかり確認できます。今見るとなんだかくすぐったい感じ。それをここまで育て上げたのはやはりこの家で過ごした17年間の賜物。毎日の植栽のお手入れは欠かしません。一日の始まりは道に落ちる葉の掃除から。漲る豊かさはひと手間の積み重ねから成っているのです。

エントランス横のシンボルツリーはソメイヨシノ。春の夜はライトアップもするので、ご近所さんのお散歩ポイントになるそう。根元には建築当初には生えていなかったシダやツワブキなどが、周囲から運ばれてきた種子から芽吹き、里山のような植え込みに
エントランス横のシンボルツリーはソメイヨシノ。春の夜はライトアップもするので、ご近所さんのお散歩ポイントになるそう。根元には建築当初には生えていなかったシダやツワブキなどが、周囲から運ばれてきた種子から芽吹き、里山のような植え込みに

暮らす「場所」

熊本から車で揺られること2時間、鹿児島に建つ吉岡さん宅に到着すると、家を眺める間もなく少し歩いたところにある小高い土地に案内された。まずはちょっと遠巻きに家全体を眺めてみる。少し静かな住宅街。すり鉢状の土地の先端、一番低くなった角地に建っている。一般的な感覚であれば良い土地とは言えない。でも遠くに海が見えて、心地が良く、何より家族が気に入っていた。

土地を購入する前の事。この土地をどうやって活かすか。隣の敷地には丁度建築途中のお家。足場を借りて、2階から見える風景を撮影した。緑豊かな眺め。本来であればこの眺望を活かしたい、が、「未利用緑地=変化予備軍」として捉えた。そこにある風景がいつまでも変わらないものなのか、それとも時が経てば無くなってしまうものなのか。我が家から見える未来の風景まで想像しきる。

実際に吉岡さん宅で建築当初に借景としていた緑地は数年で失われ、庭に木を植えることで窓の外を飾った。

少し離れた高台から眺める吉岡邸は、木々に埋もれ全貌が窺い知れない
少し離れた高台から眺める吉岡邸は、木々に埋もれ全貌が窺い知れない
成長の早い常緑樹クスノキを植えて、周囲からの視線を遮る植栽とした。17年で住宅を隠す程大きく育った
成長の早い常緑樹クスノキを植えて、周囲からの視線を遮る植栽とした。17年で住宅を隠す程大きく育った

建物は街に置かれた、変えることのできない看板。自宅も街の景観の一部であることを意識する。 例えば、隣り合う家の窓と窓。見られる方も嫌だけど、見る方だって嫌だ。 隣の家の位置を立体で捉える。内部の間取りまで予想する。交錯する窓の視点を操作する。近隣の視線関係までの配慮は信頼構築にも繋がる。家づくりは建物本体“ハコ”だけに納まらない。その周辺環境やご近所付き合いもが暮らしを左右する重要な要素なのである。

近くにある手作りジャムの無人販売所。ゆずジャムがお気に入りで、売っているのを見つけると嬉しさのあまり走って買いにいってしまう
近くにある手作りジャムの無人販売所。ゆずジャムがお気に入りで、売っているのを見つけると嬉しさのあまり走って買いにいってしまう
擁壁とガレージの支柱の隙間を利用し、DIYで棚を作ったというお話をされる吉岡さん。キャンプ道具などの車への積み込みが楽になった
擁壁とガレージの支柱の隙間を利用し、DIYで棚を作ったというお話をされる吉岡さん。キャンプ道具などの車への積み込みが楽になった
ガレージの側には薪置き場。薪屋さんのご近所の方がいつの間にか補充してくれるそう
ガレージの側には薪置き場。薪屋さんのご近所の方がいつの間にか補充してくれるそう
エントランス。訪れる人を柔らかく迎え入れる木の床。シンボルツリー、植栽、ガレージとゆるく繋がる。パブリックとプライベートの緩衝地帯
エントランス。訪れる人を柔らかく迎え入れる木の床。シンボルツリー、植栽、ガレージとゆるく繋がる。パブリックとプライベートの緩衝地帯
どこの窓からも外の植栽が覗く。樹木が室内にも優しい木陰を落とす
どこの窓からも外の植栽が覗く。樹木が室内にも優しい木陰を落とす
1階の和室。生活スタイルの変化に合わせ多用途に変わって来た。夏場は布団を敷いて寝室に。休日には読書コーナーにも。寝転がった時の庭の樹々と風の音が至福
1階の和室。生活スタイルの変化に合わせ多用途に変わって来た。夏場は布団を敷いて寝室に。休日には読書コーナーにも。寝転がった時の庭の樹々と風の音が至福

私が幼いころから大好きな映画、スタジオジブリ制作の『となりのトトロ』。冒頭は、ヒロインである姉妹が父と一緒に引っ越しをするところから始まり、新しく住み始める家を隅々まで探検する。姉妹は不思議な生き物を追いかけてはしゃいでまわるのだが、私はその舞台となる家が大好きだった。背景美術の絵による力も大きく、そこに描かれている部屋、設え、素材感など、端々からこの家で育まれた歴史が物語られる。

培われてきた物語感が映画みたいだな、と思いながら吉岡さん宅を見学していると、ガレージの屋根の上に家庭菜園コーナーが出没した。ここで育てた野菜は収穫後、すぐ横のキッチンで調理され食卓に並ぶ。「お庭でハーブを摘むのが夢だったの」と語る奥様が愛おしく、こちらも自然と笑みがこぼれる。

ガレージ屋根の端からは隣の家の樹木が侵入している。このお手入れも吉岡さんがついでにやってしまうし、逆に隣のご家族にお手入れしてもらう樹もある。春には近隣住宅一帯が一つの桜の名所のようになる。言葉だけでない、お家本体を通したコミュニケーションが形成されていた。

ガレージ上の菜園。プランターの台も吉岡さんの手作り。「ここに水道はないけれど、蓋を閉めたままでも雨水が溜まるIKEAのダストボックスは重宝しています」
ガレージ上の菜園。プランターの台も吉岡さんの手作り。「ここに水道はないけれど、蓋を閉めたままでも雨水が溜まるIKEAのダストボックスは重宝しています」
2階のキッチン&ダイニングからも眺めることができる桜の木。
家庭菜園コーナーから見える窓の向こうには、2階のキッチン&ダイニング。桜の木を望む。
ガレージ上までの通り道。外階段の踊り場から板を渡しています。気分は「吉岡さん家探検隊!」
ガレージ上までの通り道。外階段の踊り場から板を渡しています。気分は「吉岡さん家探検隊!」
2階のリビング・ダイニング。南側と西側に連続する広いメインデッキがあり、窓をすべて開ければ空間が拡張する。来客時にはBBQパーティーを開くそうだが、日常的にデッキでディナーも楽しむとのこと。木に囲まれた2階デッキだから周囲に気兼ねがない。ダイニングテーブルは夏仕様。冬場はソファセットが置かれ、薪ストーブに火が入る
2階のリビング・ダイニング。南側と西側に連続する広いメインデッキがあり、窓をすべて開ければ空間が拡張する。来客時にはBBQパーティーを開くそうだが、日常的にデッキでディナーも楽しむとのこと。木に囲まれた2階デッキだから周囲に気兼ねがない。ダイニングテーブルは夏仕様。冬場はソファセットが置かれ、薪ストーブに火が入る

住むほどに好きになる家

大事にしているのは「四季の移ろいが感じられる、自然と共生する家」「家族がいつも仲良く生き生きと暮らすことができる、情愛を育てる家」であること。囲む植栽の豊かさに加え、全体的に木で仕上げられているためか、経年で培われた”味わい”に凄みを感じる。

驚いたのは、奥様の自邸への愛。住宅業界で営業をしていた吉岡さんに負けないくらい、お家での過ごし方、大好きなポイント、エピソードをたくさん聞かせてくれた。建築のディテールひとつひとつもさることながら、嬉しそうに話すその姿を見て、建築っていいなあと思った。

ここまでの愛情を育んだのはきっと、吉岡さんがお家に対して「手を加え続けている」から。植栽はもちろんお家自体も、その時々の家族・土地・趣味・周辺環境などに合わせて変容してきた。「家の中で過ごすものが家族」だと思っていたが、家族の成長に合わせて変わる「家自体も家族の一員の様だ」と感じた。

階段ホールには壁を埋め尽くすほどの本が並ぶ。吉岡家では“踊り場ギャラリー”と呼ばれている。1階からも2階からも意外と見えにくい格好の収納場所
階段ホールには壁を埋め尽くすほどの本が並ぶ。吉岡家では“踊り場ギャラリー”と呼ばれている。1階からも2階からも意外と見えにくい格好の収納場所
玄関横のワークスペース兼シューズクローゼット兼収納。北側で暗いスペースを、なんとも落ち着く空間へと転換。本来は吉岡さんの書斎でもあるが、娘さんが受験勉強期間中に間借りした。回遊性もある
玄関横のワークスペース兼シューズクローゼット兼収納。北側で暗いスペースをなんとも落ち着く空間へと転換。本来は吉岡さんの書斎でもあるが、娘さんが受験勉強期間中に間借りした。回遊性もある

『家づくりはものづくり』

吉岡さんの家を見ていると「家づくり」は「ものづくり」だということに気付いた。考えてみればあたりまえのことかもしれない。けれども、まだ浅いながら住宅業界に身を置いていると、家は「買う」ものだと感じている人も多いように感じる。

例えば車とか、食事とか、言ってしまえば家も暮らしをつくるツールのひとつにすぎないのかもしれない。だけど、行動を、感覚を、人生を左右する重要なツールだと信じている。だからこそ、その時々に応じて「この場所・この自分だからこそ」いちばんしっくりくる形に変化していくことが必要なのだと思う。

家は人を変えるけれど、人もまた家を変える。吉岡邸の豊かな「暮らしづくり」に余念のないのないスタイルは、まさに「理想の暮らし」そのものだと感じた。

窓から竹が見える小さなダイニングコーナー。お風呂のちょうど真上。珈琲を飲みながら読書したりするのに良さそう。吉岡邸はどこにいても快適で、その快適さがちょっとずつ違う。季節によって陽の入り方、風の抜け方が変わるので、一日として同じ快適さはないのかも。住まい方を楽しむお手本にしたいと素直に思った
窓から竹が見える小さなダイニングコーナー。お風呂のちょうど真上。珈琲を飲みながら読書したりするのに良さそう。吉岡邸はどこにいても快適で、その快適さがちょっとずつ違う。季節によって陽の入り方、風の抜け方が変わるので、一日として同じ快適さはないのかも。住まい方を楽しむお手本にしたいと素直に思った
湯船から見える竹越しに見える坪庭の風景。ダイニングのちょうど真下。毎日が温泉宿気分で入浴できそう
湯船から見える竹越しに見える坪庭の風景。ダイニングのちょうど真下。毎日が温泉宿気分で入浴できそう
高級温泉旅館の心地よさををしのぐという吉岡邸の木風呂。風呂桶は置いてあるだけなので、持ち上げれば裏側まで掃除ができる。冬以外のメンテナンスは坪庭の窓をあけ放ち乾燥させる。お手入れは風通し命!
高級温泉旅館の心地よさををしのぐという吉岡邸の木風呂。風呂桶は置いてあるだけなので、持ち上げれば裏側まで掃除ができる。冬以外のメンテナンスは坪庭の窓をあけ放ち乾燥させる。お手入れは風通し命!

《date》

吉岡 孝樹 邸

設計:株式会社シンケン 代表取締役 迫 英徳 氏

1950年鹿児島生まれ。1977年シンケンを設立、家のコンセプトを施主に明快に提案する「迫メソッド」により「シンケンスタイル」を確立

photo garalley

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